水を汲む女 − 水滸伝舞台である中国宋代の人々が現実に描いていたGBB願望

748f48fc.jpg改めて復習すれば、GBBとは『ガールズ ビーツ ボーイズ』の頭文字をとったもの。
男性M女性SのSMの一形態として主にネット上で取り扱われている。
して、それについて懐疑的であることは繰り返してきた。

本稿俎上にあげるは、中国宋代に完成した怪奇伝説集・夷堅志からの一話である。
GBB(のSM性)を検証するに適当として、別プログでも紹介した。
取りあえず、お読み頂くのが一番の早道であろう。

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水を汲む女

 鼎州(ていしゅう)の開元寺(かいげんじ)にはいつもたくさんの客が寄寓していた。ある年の夏、数人の客が寺の門前で涼んでいると、そこにある井戸へ一人の女が水を汲みにきた。なかなか美しい女だった。
客の一人に、いささか術を心得ている者がいて、たわむれに術をかけると、女の水桶がぴたりと動かなくなってしまった。すると女は、その美しい顔をくもらせて、
「おからかいになっては、いけません」
といった。男がそしらぬ顔をして、術を解かずにいると、
「およしなさい!」
と女はいった。その声には、美しい女の口から出たとは思えぬほどの、鋭いひびきがあった。男はちょっとたじろいだが、相手が女なので、たかをくくってなおも術を解かずにいた。
「仕方がありません」
女はそういうと、やにわに荷い棒を地に投げた。と、棒はたちまち蛇になった。男はそれを見ると、懐から粉をかためたようなものを取リ出して地面に二十あまりの輪をかき、そのまんなかに立った。蛇は男の方へ進んでへったが、輸のところまでいくとそれを越えることができず、いたずらにそのまわりをまわるだけであった。
すると女は、日に,水をふくんで蛇に吹きかけた。たちまち蛇は数倍の大きさになリ、男にむかって鎌首をもたげた。
「いたずらはもう、おやめなさい」
と女はそのときいった。しかし男は平然と輸のまんなかにつっ立ったまま、こたえなかった。蛇は外側の輪を越え、なんなく十五、六番目の輪まで進んだ。
「まだやめませんか」
 男が黙っていると、女はまた口に水をふくんで吹きかけた。蛇はこんどは椽(たるき)ほどもある大蛇になって、するするとまんなかの輸まで進んだ。
「まだやめないのですね」
 女はその美しい顔に妖しい笑いをうかぺていった。男は今となってはあとへ引くこともできず、
「やめぬ」
といいかえした。と、蛇はたちまち男の脚に巻きつき、みるみるうちに頭の上まで巻き上っていった。男の苦痛のうめき声がきこえた。−今に骨をくだかれて死んでしまうのであろう。見ていた客たちはおどろき、あわてた。
「助けてやってくれ!」
と一人が叫んだ。すると女は、その男をふりかえって笑った。「あわてることはありませか。こらしめただけです」女が手をのばすと、大蛇はたちまち小さな蛇になって男の首のあたりをはいまわった。女はそれをつまみ取って、地面へ捨てた。蛇は地面へ落ちると、たちまちもとの荷い棒になった。
 見守っていた人々はみな大きく息を吐いて、あらためてその美しい女を見た。女は、蒼白になってふるえている術をかけた男にむかっていった。
「あなたはまだ未熟なくせに、どうしてあんないたずらをするのです。術はいたずらをするためのものではありません。わたしだからよかったものの、ほかの術者にあんないたずらをしたら、きっと殺されてしまいますよ。これからは、つつしみなさい。きょうのことはゆるしてあげます」
 男は深く頭を垂れてあやまった。女はなにごともなかったように、例の荷い棒で水桶をかついで立ち去っていった。男はそのあとを遣っていって、女の弟子になったという。

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いかがであろう?
件の過去稿で論じたごとく、これを読み我と我が身に置き換え、格下に打ち負かされる屈辱感に昂ぶる男性諸氏がマゾヒスト、と納得いただけるであろう。
そして本ブログの主眼は、女性の側である。

見てのとおり劇中女性には、嗜虐の色合いは爪ほどにもない。
いや、「既にない」と言うべきか?
かつて彼女が持ち合わせていたサディズムは、克己心という触媒により自制の方向にエネルギー変換され、仙術取得の為の燃料として使われたのであるから。

藪から棒ながら、ゴキブリというのは新薬の原料になるとか。
と言えば、勘のよいかたは、論者が言いたいをお察しであろう。
劇中仙女の『ゴキブリ』、言わずもがなサディズムの比喩、は、『新薬』の象(=かたち)となってビジュアライズされているのである。

サディズムに花束を。



posted by homer_2006 | サディズムに花束を!
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